オペレッタいろいろ その3【フォルクスオパーの新作オぺレッタ「会議は踊る」】

3月にウイーンを訪れた際に昨年初演された新作オヘレッタ「会議は踊る」(Der Kongress tanzt)を見た。

勿論1931年制作の往年の名作映画のオペレッタ版である。

 

フォルクスオパーの総監督ロベルト・マイヤーが監督し、自ら宰相メッテルニヒ役を演ずるこのオペレッタは好評を博してレパートリー入りし、今年も続演となった。

振り返って、1920年代末のトーキーの実用化以来、オペレッタ作品の映画化は多数あるが、映画として先に上映された作品を、後にオペレッタ化して上演された例はまことに少ない。

私の記憶にあるのは、映画「ワルツを巡る二人の心」(1930)とオペレッタ「失われたワルツ」(もしくは映画と同タイトル)(1933)、映画「春のパレード」(同筋で3回映画化1935・1940・1955−ドィッチェマイスター)と同名のオペレッタ(1965)位である。作曲はいずれもロベルト・シュトルツ(1880~1975)。

映画「会議は踊る」は1931年制作、翌年日本でも公開されたドイツ・ウーファの作品、映画評論家の淀川長治氏によれば、映画史上一二に数えられる名作。

1814~1815年に開催されたウイーン会議を背景に、ロシア皇帝と手袋屋で働く町娘とのはかない恋を描いている。

現在の高齢者は殆ど何回も見ており、その主題歌「ただ一度だけ」「新酒の歌」は今も口ずさむ人が多い。

私はこのテキストは、本当にオペレッタに最適で、もしもトーキー映画が発明されていなかったら、最初からオペレッタになっていたであろうと思っていた。

そして、いつかオペレッタ化されるのではと期待していたものである。

 

今回の新作オペレッタとしての上演は、オペレッタ自体としては稍ミュージカル風だが、テキストは映画の原作をかなり忠実に踏襲している。

音楽については原作の主題歌以外は、原作映画の音楽の編作を行ったウーファの音楽監督リヒャルト・ハイマン(1896~1861)の他の映画音楽やヒット作品から、今回の上演の指揮者でもあるクリスティアン・コロノヴィッツが新たに編曲したものである。

 

オーケストラは、映画が上映された時代のドイツポップスオーケストラのスタイルで、通常のオーケストラ編成を稍縮小し、ジャズバンド系の楽器を加えた編成となっている。

出演者は、クリステル役のアニタ・ゲッツ、ペピ役のミヒャエル・ハブリチェクが歌・演技とも新鮮で軽快、監督マイアーらのベテランに、30年代の人気ボーカルグループ「コメディアンハーモニスト」の後継グループのメンバーを会議参加国の国王役等にに加えた歌手陣もよく、時事風刺の台詞などもあって、楽しめる作品となった。

ただ、演技や背景などには、映画のような重厚な時代色は望めない。

 

原作の映画との比較となると、どうして簡単ではない。映画「会議は踊る」は、ベルリンと日本では大好評を博したが、ウイーンでは不評であった。

要するに似非ウイーン的だということであったようである。

例えば、ホイリゲの場面、ウイーンならシュランメル四重奏団あたりが、それらしい音楽を演奏しているべきなのに、シューベルトの軍隊行進曲とは、といったところだろう。

そんなこともあり、ウイーンでは、この映画を見たことがないという人も意外と多いようだ。

また、映画が作られた1931年当時は、帝国崩壊からまだ13年しか経っておらず、観客は帝政時代を生きてきた人たちが未だ大部分であり、1815年のウイーン会議当時のこととはいえ、今日の人たちと比べて、より共感を持って見たはずである。

現在の人が、このオペレッタを見た上で、改めて映画を見て、更にウイーン会議の時代に思いをはせようとすると、少なからず混乱しそうである。

 

音楽上では、オペレッタの音楽と、映画の音楽では更に大きな差異がある。

この映画は、時に音楽映画と思われているが、必ずしもそうではなく、演劇的な無音の場面や台詞の部分が結構大きな部分を占めている。

しかし、一旦音楽が鳴り出すと、実に見事に効果的に使われているのがわかる。一例を挙げれば、主人公のクリステルが馬車をおりてロシア皇帝の宮殿に入り、階段を上り、ベッドの上で飛び跳ねるのまでの場面、一切台詞はないが、音楽がクリステルの動きは勿論、不安と喜びの交差する心を実にリアルに表現しきっている。

その下敷きとなる音楽も、場面で特に必要とされた行進曲やマルセーズなどを除けば、全編を通じて流れるのは、ヨーゼフ・シュトラウスとフランツ・シューベルトの音楽である。

この二人が音楽史上、ウイーンが生んだもっとも感性豊かな作曲家であることは言う迄もない。中でも、冒頭のタイトル場面から終わりまで、一貫して使われているのは、ヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「天体の音楽」作品235の第一ワルツの主題であり、続いて舞踏会の場面とホイリゲの場面で、シューベルトの四手ピアノのための軍隊行進曲第1番と第3番D733、更に主題歌のひとつ「新酒の歌」は、シューベルトの即興曲D899の4と、ヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「わが人生は愛と喜び」作品263の第一ワルツからとられている。

この限られた、しかし最高の素材を縦横に駆使して、全体の統一感を保ちながら最高の効果を上げたのは、編曲者としてのハイマンの力量であった。

 

この映画をオペレッタ化する場合、そのままこの音楽を継承するのか、するにしても映画では、無音や台詞の処に必要な音楽をオペレッタではどう埋めていくか相当検討されたに違いない。

先に上げた他の映画のオペレッタ化の例は、作曲・編曲を共にシュトルツが担当したので問題がなかったが。

 

今回は、主題曲こそ、映画の2曲をそのまま採用しているが、その他の部分には、ハイマンの多数の映画の主題歌や流行歌が取り入れられ、いわばハイマン賛歌と言った作品になっている。

タンゴや30年代のダンス音楽のリズムを含むこれらの音楽は、映画制作当時のオーケストラ編成と相まって、それなりの統一感はあるが、ストーリーとは関係のなさそうな歌詞の歌が挿入されたりして、1815年当時を描いた映画の音楽としてはどうも違和感がのこる。

また、オーケストラも編成こそ当時と同じでも、各楽器の音の出し方はよりシャープになっており、演奏スタイルも1931年頃とは違うので、音楽の雰囲気はかなり異なり、音楽を再現する難しさを感じさせた。

 

結論としては、このオペレッタは、同名の映画や、歴史上の事実などをさておいて素直に見れば、充分出来が良く楽しめる現代オペレッタである。

文:柴山 三明

 

 

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